2) 意識論解釈(強いコペンハーゲン解釈);
これは、最近主張する物理学者はいなくなってきたが、ニューエイジムーブメントの中でその理論的な土台を与えるものとしてもてはやされた解釈である。
代表的なF・カプラの解釈を挙げてみると、
”人間の意識が観測された現象の性質をかなりの部分決めてしまう”、というものである。
元々のボーアらによるコペンハーゲン解釈の文脈と比較すると(**)、”意識”の要素は、量子力学的な決定機構に何らかの影響を与える可能性があるようにも思われる。
さて、意識ははたしてカプラが主張するように、物質や他の意識に影響を与えるのだろうか?。
この類の事については、信憑性があるという点から、ノーベル賞物理学者のブライアン・ジョセフソンの著書から2つの記事を引用したい。
@ 意識の物体に与える効果に関する実験群の統計処理について;
「ランダムな物理系における意識に関連した効果の測定」(米、ラディン、ネルソン、foundation
of physics 誌、1989)による。対象は、”マイクロp−k実験”と呼ばれる、ランダム出力となるように設計された電子回路の微弱な出力が被験者の意志によって変化するかを調べる実験群で、研究者68、実験597、コントロール実験235、論文152についてメタ解析(公表データからのお蔵入りのデータ数の推定)を行ったものである。
その結果、お蔵入りデータの数は54000であり、ジョセフソンはこれほど多くの否定的な実験結果があるとは考えにくいということが今の所最も有力な証拠であるとした上で、逆に、メタ解析の助けを借りる必要のないほどの明確な実験結果は無い、とも述べている。
A 意識作用の量子力学的な相関について;
EPR相関との類似性から、
・ テレパシー ・・・ 一つの心から別の心への遠隔的情報伝達
・ サイコキネシス ・・・ 心が遠隔的に物体に影響を与える事
について、ジョセフソン自ら実験を導いた。
その結果、それらの相互作用は純粋にランダムで、そのため、量子論の適用は不可能であった。
このように、一般的には、人の意識はほとんど何も他の意識や物体に影響を与える事は無いと言える。
したがって、カプラの言う、強いコペンハーゲン解釈はまちがいであり、これに基づく一切のニューエイジ的なもの(超能力、オカルト、気、易、占い、意識工学など)やアジアの伝統的な宗教哲学(ヒンズー教、仏教、道教など(***))やユング心理学(****)は、物理的根拠の無いものであると言える。
(もし、何らかの超常現象が本当に起こったのならば、それは”霊的要因”による。)
【 参考 1−1 】 ** 本来のコペンハーゲン解釈;
”物質の粒子も分離された粒子も抽象概念であって、本質的な粒子ではない。粒子の特性は他の系との相互作用を通して初めて定義分離できる。” ・・・ N・ボーアのコペンハーゲン解釈
”われわれが観測しているのは自然そのものではなく、われわれの探求方法に映し出された自然の姿である。” ・・・ ハイゼンベルクの解釈
【 参考 1−2 】 *** アジアの伝統的宗教哲学について;
・ ヒンズー教 ・・・ すべての形態は相対的・流動的で、カルマという力が支配している。それを超越している実体として、万物の本質すなわち魂と呼ぶべきブラフマンという究極的リアリティーを見出すというもの。
・ 仏教 ・・・ すべてはカルマという輪廻の束縛の中にあり、それを解脱してニルヴァーナに至ることを目標としている。精神であり同時に物質であるダルマカーヤという根源的リアリティーを見出すというもの。
・ 道教(中国思想) ・・・ 天地の自然のプロセスに見を任せる者にとって世界は手の内にあるとする。その自然の摂理である道(タオ)によると、自然の周期的性質に関する”陰陽”の思想があり、そこから易や気が発生するというもの。
F.カプラは、これらのアジアの伝統的な宗教哲学は基本的に同じ思想であって、万物は一体で宇宙全体に中の相互に関連し合った形態が見出され、量子力学の意識論解釈が適用されるとした。(宇宙全体、あるいは、宇宙と一体になった人が”神”)
【 参考 1−3 】 **** ユング心理学について;
フロイト心理学が個々の意識の下層部に個々の無意識を認めているのに対し、ユング心理学では、下層部で超個的につながっている全人類共通の”集合的無意識”と言うものを置いて、心と心の遠隔的つながりを論じた。ユング自身多くの宗教的体験をし、いわゆる体験主義を強調し、環境と魂との間には霊的エネルギーというものが媒介するとしている。
カプラは、ユング心理学も引き合いに出して、この集合的無意識の中に量子力学的な個と個のつながりがあり、これが、テレパシーなどの超常現象の謎を解くものであるとした。(集合的無意識が”神”)
【 参考 2 】 量子論解釈の流れ;