5. 脳・神経のメカニズム(1)



  (1) 動物の 脳・神経系の比較:


  原索動物(脊椎を持たない海産動物の総称: ホヤ、ナメクジウオなど)よりも高等な動物には、神経系 が存在する。

  また、脊椎動物の脳の「発生」( 注) ”進化”ではない!)は、”原始的な脳”ともいうべき 前脳、中脳、後脳の発達から始まり、後脳からは 小脳と 橋が形成され、脊髄の先端が肥大化して 延髄となる。
  この 延髄、橋、中脳、間脳 を総称してして 脳幹”生命脳”)と呼ぶ。これらは、脊椎動物に共通する部分で、呼吸、循環、消化、睡眠などの生命活動を維持する部分である。
  間脳の視床下部には、食欲性欲の中枢があり、その付近には攻撃性の中枢がある。(本能的な欲求) また、視床下部は、循環器、呼吸器、消化器、瞳孔、涙腺などの働きを自動コントロールする 自律神経の中枢でもある。

  脊椎動物の脳を比較すると、@ 魚類では、水中での運動機能をつかさどる脳の後ろの部分(小脳”運動脳”)のみが発達している。 A 両生類・爬虫類では、小脳が魚類よりも小さく、脳幹と 大脳基底核の部分が脳の大部分を占めるようになる。大脳基底核”動物脳”・・いわゆる”ワニの脳”)は、本能的な情動(原始的な感情)をつかさどると同時に、無意識な手足の運動や姿勢の安定に深くかかわっている。 B 鳥類では、小脳がよく発達していると共に、この 大脳基底核が運動の最高中枢として働いている。 大脳基底核は、運動の”自動安定装置”であり、大脳がそれほど発達していない鳥類が空中での微妙な運動をよくコントロールしている理由であるといわれる。
  さらに、C 哺乳類になると、後脳から発生した 橋(きょう)が形成され、大脳が大きく発達し、高等な哺乳類になると、学習や行動、知的判断などを担う 大脳皮質(旧皮質、古皮質、新皮質)が発達する。

  ヒトの脳も、発生の初期には、ホヤの幼生と同じ ”神経管”から始まる。 ヒトの脳は、妊娠30日程度で、脳の原型となる”原基”がほぼできあがる。細胞分裂を繰り返していくと、外胚葉から”神経板”という細胞の集団が作られ、その内側がくぼんで 一本の”神経管”(直径0.1mm以下)ができあがる。 次に、神経管の前部(大脳へ発達)、中央部、後部(小脳へ発達)がそれぞれ別々に細胞分裂してふくらみ、形が湾曲して、ヒトが二本足で歩行するのに適した形となる。(cf. 魚類では細長いまま) 妊娠50日ほどになると、前脳の細胞分裂が活発になり、左右一対の大脳半球が形作られる。 妊娠70日頃には、大脳皮質のシワや溝ができ、妊娠9ヶ月には、大人の脳とほぼ同じ原型ができあがり、最終的には、脳全体で千数百個以上大脳皮質で 140億個もの神経細胞をもつ巨大な脳が完成する。この数は、ほとんど ヒトの大人の脳細胞の数である。
  (”胎教”もあるが、出生後、神経細胞相互の連関ができあがっていく。 脳の神経細胞は出生後、ほとんど増殖せず、20歳を過ぎると10万個/日減少し、80歳まで生きるとして約22億個が死滅する。しかし、神経細胞相互の連関が出来上がっていくことにより、必ずしも頭が悪くなるというわけではない。また、「可塑性」という機能により、無くなった神経細胞の代替をするように、近くの細胞が働く。)

  

  * それぞれの部分の機能:

  ・ 延髄は、内臓性感覚(味覚)、内臓性運動(消化、咀嚼(そしゃく)、嚥下(えんげ)、酸素の供給)などの生命維持活動をつかさどっている。
  ・ には、中央部に大量の神経繊維が走っていて、大脳と小脳からの情報を連係している。この上部左右には米粒大の”青斑核”があり、これを損傷すると レム睡眠(夢を見る時)が生じなくなるといわれる。
  ・ 中脳には、中央部に神経線維が網状になった”中脳網様体”(・・・・ 網様体は 延髄から中脳まで広がって存在し、呼吸・心拍・血圧を調整する中枢で、生命維持の働きをする)があり、「意識」「覚醒と睡眠の調節」を支える重要な役割をもっている。また、”快感神経(A10神経)”、”不快神経”などの起点であり、痛覚線維、三叉神経、視聴覚・対光反射・眼球運動反射などの中継機能、さらに、なめらかな運動機能をつかさどる”赤核”、”黒質”という部分がある。
  ・ 間脳には、自律神経の中枢である視床下部があり、内蔵の動きを自動コントロールし、脳下垂体からは、各種”神経ホルモン”(副腎皮質刺激ホルモン)や”催乳ホルモン(プロラクチン)”、”黄体ホルモン”、”成長ホルモン”などを分泌する。

  ・ 大脳新皮質”人間脳”)の発達こそ、人間が人間らしくある所以である。ヒトでは、旧皮質、古皮質が内側へ追いやられ、新皮質が大脳半球の大部分を占める。また、「連合野」の領域が広く、5つの連合野はそれぞれの機能を統合する。 前頭連合野は、意欲や意志、言語、判断、創造的な精神活動に深くかかわっている。運動前野(中心溝の前部、運動をつかさどる)、頭頂連合野(中心溝〜頭頂後頭溝の間、中心溝の後部は体性感覚をつかさどる)、後頭連合野(視覚認識)、側頭連合野(聴覚、記憶)

  ** 体重に対する 脳の重量比は、知能とあまり関係が無い。 ヒト脳重1375g(成人男子1350〜1400g)、体重比率2.44%)、ゴリラ(450g、0.50%)、ゾウ(4660g、0.23%)、ネコ(32g、0.78%)、ネズミ(0.376g、2.78%、カエル(0.095g、0.25%)。 また、脳の”シワ”の数も、知能と関係が無い。(ネズミやウサギの脳にはシワが無いが、イルカにはヒトよりも多くのシワがある)
  動物の大脳皮質の神経細胞の数は、ヒト:140億個、ウサギ:13億個、マカク(ニホンザル、カニクイザル、アカゲザルなどの総称):50億個、チンパンジー:80億個。




  (2) ヒトの脳と 心との関連:


  @ 恋愛感情と”ワニの脳”:

  ヒトの大脳辺縁系は、闘争本能や縄張り意識などの”きわめて原始的な無意識”をつかさどる所で、”爬虫類の脳(ワニの脳)”とも呼ばれる。ここでは、恐怖、怒り、好意、嫌悪、愛着、喜び、悲しみなどの、動物でも持っている「情動」(=原始的な感情)を支配し、食欲などが満たされた””、満たされない”不快”も含まれる。 我々ヒトが、人を好きになったり 嫌いになったりする感情も、この”ワニの脳”による。
  ただし、大脳皮質が発達していない”ワニ”などは、敵に対する行動は生まれつきのもので、遺伝子によってプログラミングされた決まりきった行動でしかない。 一方、ヒトは、大脳新皮質のうち、特別重要な働きとして、この「情動」と「思考」とを統合する働きがあり、「心」の創出に大きな役割を果たしている。高度な学習能力により、状況に応じて適切な行動をするように、自らの「意志」でそれらをコントロールすることができるのである。

  この 大脳辺縁系の本能的な働きに基づく「快」、「不快」という価値判断が、動物の行動の基本になっている。この”好き”、”嫌い”の価値判断をしているのが、大脳辺縁系の中の「扁桃体」(ヒトで長さ15mmのアーモンド(扁桃)形)であり、外敵から身を守るための闘争本能や攻撃行動をつかさどる。
  扁桃体の隣には「海馬」(タツノオトシゴ(海馬)のような形)があり、「記憶」、特に、「短期記憶」(数週間で消えるもの)に深くかかわっている。(海馬を電気的に刺激すると過去の記憶が鮮明に呼び起こされる(フラッシュ・バック)) この海馬と扁桃体は、本能的な欲求をつかさどる視床下部と密接につながっていて、体験した快い感情報酬)が伴うと、もう一度同じ体験をしたいという行動(=報酬行動)をとるようになる。 また、大脳皮質は、記憶(長期)の貯蔵庫であり、知的な喜びや 感情が引き起こすイメージなどが伴うと、一層鮮明に残る

  視床下部には、食欲中枢、性中枢、攻撃中枢などの、動物が生きていくために必要不可欠な中枢が密集している。 この、間脳にある視床下部と、そのすぐ下の脳下垂体が、心拍数や呼吸などをコントロールする「自律神経」の働きに密接に関係しているので、大脳辺縁系によって「情動」が呼び起こされると、内臓にも変化が起きる。(好きな人を目の前にして、赤面し、心臓の鼓動が活発になる、なども)
  視床下部は、”心と体が出会う場所”といわれ、脳と体の働きを、自律神経とホルモンでつなげるパイプとなっている。 人間が何らかの刺激を受けると、視床下部が自律神経に働きかけ、交感神経が興奮し、副腎髄質からアドレナリンが分泌される。(副腎髄質からアドレナリン、ノルアドレナリンが、副腎皮質からステロイドホルモンが、それぞれ分泌地され、両者のバランスによって自律神経の働きが営まれている)

  嫌いな理由を理路整然と説明しようとしても、自身の中に存在する”ワニの脳”が嫌いと言えばどうしようもない。大脳のほうから、”内なるワニ”を「支配する」必要がある。


  A 快感神経:

  ヒトや動物が、欲求が満たされ、あるいは、欲求が満たされることが分かっている場合、「報酬系」と呼ばれる部分が活性化して、「快」の感覚を与える。 欲求には、喉の乾き・食欲・体温調整欲求などの生物学的欲求の他に、ヒトの場合、他者に誉められること・愛されること・子供の養育など、より高次で社会的・長期的なものまで含まれる。報酬系の働きは、学習や環境への適応において重要な役割を果たしている。
  創造やひらめきを起こす前頭葉は、大脳皮質の33%を占め、人間として生活する上で必要な働きをつかさどっている。 この前頭葉に指令を出すのが脳幹であり、その中央に、3列ずつ左右対称に計40個の神経核が並んでいる。(外側:A列、内側:B列、中間:C列) このうち、外側の A列の下から10番目の神経核が「A10神経」であり、”快感神経”と呼ばれ、脳細胞に快感と覚醒を与えるドーパミンを、大脳に分泌している。(この中脳部分に電極を埋め込んだサルやネズミは、とめどもなくスイッチを押す。サルにオナニーを教えると、(大脳からの自制が利かずに)死ぬまでオナニーをし続けるという)

  A10神経で分泌されたドーパミンは、視床下部(食欲、性欲などの中枢)に入り、扁桃核(攻撃性)、側座核(行動力)、海馬(記憶力)、尾状核(表情・態度)へ進み、最終的に大脳の前頭連合野に入る。この経路が、人間に、喜びや 困難に立ち向かうための やる気を起こさせ、前頭葉の活動が高まり 新しいものを生み出す快感が与えられる。 このA10神経を、GABA(ガンマアミノ酪酸)神経が抑制しているが、これもオピオイド(麻薬のような神経伝達物質)を分泌する。
  前頭葉や辺縁系にドーパミンが過剰に蓄積された状態は、覚せい剤で幻覚や妄想を引き起こす薬物中毒患者や、精神分裂症の脳の状態と似ているといわれる。(ドーパミン過剰症候群: 分裂症だったゴッホやムンクのような天才と紙一重の場合、このタイプと言える。 ただし精神分裂病には、グルタミン酸のレベル低下により、無気力で自閉的になったり、考えがまとまらなくなったり、自分が何を言っているのか分からなくなるなどの症状もある。)
  ただし、あまり喜び 興奮してドーパミンの汁が ドパドパ(?)出過ぎた後は、ドーパミンがノルアドレナリンやアドレナリンという交感神経の伝達物質の前駆体なので、アドレナリンに変わり、怒りや闘争心が掻き立てられ 無意識の内に力み過ぎになって失敗することが多い。


  また、脳下垂体前葉からは、”脳内麻薬”と呼ばれるエンドルフィンが分泌される。これは、ペプチド(たんぱく質)であり、天然の麻薬とは構造が異なるが、脳神経細胞の受容体には同じように結合する。 ”ランナーズ・ハイ”、”瞑想”のように、苦痛に対するフィードバックとして出され、特に βエンドルフィンは苦痛除去の時に最も現れ、モルヒネの6.5倍の鎮痛作用があるとされる。(エンドルフィンの分泌量は少ない) ハツカネズミにコマ回しをさせる実験で、疲れても休ませずにコマ回しをさせたネズミの脳を調べると、エンドルフィンが増えていた。
  ドーパミンとエンドルフィンが同時に分泌されると、人間は非常に恍惚とした状態になるという。A10神経から少量のドーパミンしか分泌されなくても、βエンドルフィンがあれば、ドーパミンが10〜20倍も出たのと同じ作用がある。 このエンドルフィンのレベルが下がると、不安を覚えるようになる。

  因みに、この「快感神経」と隣り合って、「不快神経」が存在している。不快神経の情報伝達には、アセチルコリン(タバコのニコチンはアセチルコリンに取って代わる)が関係しているといわれる。


  B 頭の回転の速さ:

  脳の中には、神経細胞(ニューロン)と、数の上でその50倍(重量で10倍)の神経膠細胞(グリア細胞)が存在し、突起を伸ばして複雑な回路網をつくりあげている。グリア細胞は神経細胞を固定し、栄養面で神経細胞を支える働きをするが、それ自身も回路網の一部を形成できる。 そして、五感をはじめ、脳から発せられるいろいろな情報は、コラムという それぞれに関連する領域を伝わっていく。一つのコラムには、同じような性質を持つ約1万の神経細胞が集まっていて、脳における情報処理の最小単位を構成している。コラムのどの部分で、分析、処理、統合などが行なわれているかはほとんど解明されていない。 コラムの数が多いので、それを限られた頭蓋骨の中に収めるため、新皮質は深いシワを作って折り畳まれている。

  ここで、いわゆる”頭が良い”、”頭の回転が速い”とは、どういうメカニズムによるのだろうか?

  神経細胞と神経細胞との間には、20万〜30万分の1mm(3〜5nm)程度の隙間があり、この間をつなぐのがシナプスである。このシナプス間を、各種の神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン、など数十種)が物質移動する。 神経伝達物質は、神経細胞で生産され、シナプスまで運ばれ そこで一時貯蔵され、次の神経細胞の受容体(レセプター)があり、この伝達物質とレセプターが カギとカギ穴のように適合すると、次の神経細胞に信号が伝わり電気が走る仕組みになっている。 これが、各種の知覚や運動、麻酔や覚せい剤・麻薬などの作用する神経系が限定される理由である。

  一般に、明晰な頭脳の持ち主ほど、1) 神経細胞のネットワークが複雑かつ効率的に張り巡らされ、2) 信号の伝達速度も速い
  伝達速度は、軸索の太さが太いほど、また、髄鞘(ずいしょう、リン脂質の絶縁体)の形成ができているほど、大きくなる。(50cm/秒〜120m/秒;各種神経系によって大きく異なる *)

  また、脳波が α(アルファ)波のときを経ると、人は最も能力を発揮しやすい状態になるといわれる。(脳波には、δ、θ、α、β、γ などがあり、 睡眠中の無意識の状態で α波(10サイクル/秒)、 浅い睡眠と深い睡眠を行き来している状態で θ波、 緊張しているときや数学の問題を解いているようなとき、悩んでいるときは γ波(最も速い)が出る。
  何かに集中したり、リラックスしているとき、瞑想して落ち着いて思考している状態でも、脳波は α波になるといわれる。ほとんどの人はただ目を閉じただけで α波になるが、10秒も続かない。そこで、イメージトレーニングでストレスを解消し、精神をリラックスさせる訓練が推奨された。(実際に、学校で実施され、その訓練後はどんな教科も成績が伸びたそうである)
  すなわち、少しでも長い時間 α波にすることができれば、脳は深い休息に入り、抑制状態になり、リフレッシュされ、再び活発に活動するのである。(香りが分かるか分からないか程度のアロマテラピーをロビーや待合室などで行うことも実施されている。)
  ただし、宗教の”難行・苦行”は、大脳内にエンドルフィンを分泌させ”快楽”を得させて、宗教的な洗脳やマインドコントロール、催眠術などを受け入れさせることができるが、脳に極度のストレスを与え、精神障害を受けたり、教祖の妄想に巻き込まれたりし、ヒステリー状態からの集団自殺や反社会的な行動もすることもある。また、その宗教から離れた後は、後遺症として、集中力が無くなり、恐怖に襲われることが多い。

  * 脳波の周波数: δ:1〜3Hz(ノンレム睡眠・熟睡時)、 θ:4〜7Hz、 α:8〜13Hz(レム睡眠、閉眼・安静の覚醒した状態)、 β:14〜30Hz(能動的で活発な思考や集中)、 γ:30〜64Hz(同期的で協奏的な認知活動、新しい洞察の認知)、 その他、 ω:64〜128Hz、 ρ:128〜512Hz、 σ:512〜1024Hz、 また、振幅は、正常人で20〜70μV


  C 脳への”栄養”:

  脳のエネルギー源になっているのは、ほとんどがブドウ糖であり、肝臓と腎臓から供給されるが、約8時間分しか貯蔵されていない。したがって、食事によって血中のブドウ糖が増えれば、脳の中では FGF(線維芽細胞増殖因子)が急増し、そのうちの酸性のFGFは 脳を活性化させ、記憶力を高める働きがある。 このFGF量は食後30分〜3時間が最も多く、食後2時間くらいが FGFが海馬に取り込まれる時間帯である。 したがって、その時間帯に学習すれば、最も効率よく勉強できる。
  さらに、食事の効果として、十二指腸からコレストキニンというホルモンが分泌され、肝臓の門脈(肝静脈)の末端から迷走神経(内臓に広く分布し、知覚、運動、分泌をつかさどる)を刺激し、視床下部から海馬に入り その働きを活性化する。
  逆に、食事を採らないと、血糖値が下がり、(通常の食欲がある場合、)食欲と攻撃性の中枢が辺縁系で隣り合っているので、いらいらしたり攻撃性が増したりする。これは、ハングリー精神として、肯定的に用いられる。(ボクサーの試合前の減量は、この攻撃性を相手に向けるのに役立っている。) しかし、いじめや口論、時には、暴力犯罪の原因にもなり得る。過激なダイエットとして食事を採らないのは考えものである。
  脳の活性化には、1日3回の食事(特に、朝食)を腹8分目にとることが重要となる。 食べ過ぎは、高濃度のブドウ糖が血中や 脳脊髄液中に含まれるため、脳を活性化しても、記憶力を高めるFGFの生産が追いつかなくなり、記憶力や学習能力が低下する。 また、(食事の量に関係なく)食事をとった直後は、血中にブドウ糖と共に インシュリンの量が増え、視床下部の「満腹中枢」を刺激するが、そのすぐ近くにある「睡眠中枢」をも刺激してしまい、眠気を催すことになる。食べ過ぎなければ、食後30分程度で眠気は消える。

  (参) 断食祈祷(水断食)などでは、最初の1日目がつらいが、その後はむしろリラックスしてくる。断食が明けると、体が栄養面で充分休息し、その後、脳や体のいろいろな機能が断食前よりも癒され、活性化してくる。



  * 神経伝達物質と神経系:

  神経伝達物質は、シナプスで情報伝達を介在する物質で、シナプス前細胞で合成、あるいは、外部から吸収され、シナプス終末にあるシナプス小胞に蓄えられ、そこへ活動電位が到達するとシナプス間隙に放出される。これは、後シナプス細胞の細胞膜上にある受容体と結びつき、イオンチャンネルを開かせ後シナプス細胞に脱分極、または、過分極を起こさせる。
  神経伝達物質は、体内で合成されるものの他に、医薬品や麻薬・覚せい剤、多くの毒物などもそれぞれの受容体と結びついて作用する。
  (↓ 体内合成される 代表的な神経伝達物質)
  

  分類  神経伝達物質  前駆物質       起源組織  作用神経系               作用
モノアミン類 ドーパミン  チロシン
  → Lドーパ
   大脳基底核、中脳  中枢神経 運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習
ただし、過剰分泌は 統合失調症
ノルアドレナリン  ドーパミン   副腎髄質から血中へ  交感神経 闘争・逃避反応、心拍数増加、脂肪からエネルギー、筋肉増強
アドレナリン  ドーパミン   副腎髄質から血中へ  交感神経 闘争・逃避反応、心拍数増加、脂肪からエネルギー、筋肉増強
セロトニン  トリプトファン  視床下部、大脳基底核、延髄  中枢神経 日常生活から精神疾患(うつ、神経症)に影響、過剰では偏頭痛、
メラトニン(睡眠導入物質)へ転換
アセチルコリン   コリン  副交感神経・運動神経の末端  副交感神経 骨格筋・心筋を収縮、脈拍を遅くする、唾液を分泌
ヒスタミン  ヒスチジン (音や光などの外部刺激および情動、
空腹、体温上昇などの内部刺激
により放出
 中枢神経/
血管内皮細胞など
血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進
アレルギー・炎症の発現介在物質

覚醒状態の維持、食行動の抑制、記憶学習能の修飾
アミノ酸 グルタミン酸  中枢神経 学習、記憶、 嗜好と感情をコントロール
γ-アミノ酪酸(GABA) 脳内グルタミン酸    海馬、小脳、脊髄  中枢神経 抑制系の反応、GABA受容体に 鎮静、抗痙攣、抗不安作用
アスパラギン酸 グルタミン酸
グリシン 抑制系の反応
ペプチド類 バソプレシン 脳下垂体後葉 → 腎臓V2受容体へ 抗利尿、血圧上昇
ソマトスタチン 脳下垂体、膵臓(ランゲルハンス島) 成長ホルモン・インスリン・胃液などの抑制
ガストリン    胃の幽門前庭部 胃液・ペプシノゲン、インスリン分泌促進
副腎皮質刺激ホルモン     視床下部  副交感神経 副腎皮質ホルモンの分泌促進
エンドルフィン  脳内報酬系(視床下部、弓状体)  中枢神経 内在性鎮痛系に作用、多幸感





  ● (参考) →   報酬系と痛みの脳科学(2017 10/20)




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