報酬系と 痛みの脳科学
2017年10月20日
人は、健康、快楽だけでなく、病気になったり、痛み・苦しみも その体に感じて生きていく存在です。 この”痛み”という たましいの特性を、だれ一人偽ることはできません。 痛みは本当に嫌なものです。
人体は、単に「弱い」だけでなく、「悲惨な」ものとして造られました。 普段は痛みを感じないで、それが当たり前と思っていても、いざ痛みが起こりだしたら
一瞬でも早くその痛みを取り除きたいと思うでしょう。 そして痛みを消すために、それ相応の手段を講じていくことになるのです。
この悲惨な特性が初めから与えられたのは、創造主である神を恐れ、次の世の 「永遠に朽ちない体」を与えてくださる 救い主に、唯一の希望を置くためです。 これが世の初めから隠されていた「奥義(μυστηριον(ミュステリオン)、 mystery)」です。(Tコリント15:51、52)
1. 大脳皮質・基底核・辺縁系の位置づけ: 2. 快楽 と 報酬系の回路:
3. 感覚神経 のメカニズム: 4. 備えられた内在鎮痛系:
5. ペインクリニックの実際: 6. ”痛み”という たましいの特性の意義:
1. 大脳皮質・基底核・辺縁系の位置づけ: ((参考) 基礎的なこと: 5.脳・神経のメカニズム(1))
辺縁系 + 基底核までは いわゆる”ワニの脳(爬虫類の脳)”と呼ばれる。
一方、哺乳動物からは大脳皮質が急速に発達してくる。
大脳辺縁系: 扁桃体(へんとうたい) ・・・ 闘争か逃避を決める、 原始的な良し悪しの感情(=情動)、 恐怖条件付け、 摂食
海馬(かいば) ・・・ 2週間ほどの短期記憶、 数年〜数十年の長期記憶を大脳に記録させる、 空間学習能力、 βエンドルフィンの分泌や A10神経の活性化(快楽・多幸感)により、海馬を経由した長期記憶が増強するといわれる。 扁桃体から海馬、帯状回、乳頭体までは、常に情報が行き来している。
中隔核 ・・・ 恍惚感 梨状葉 ・・・ 匂いの情報処理と記憶
大脳基底核: 線条体 = 尾状核 + 被殻 ・・・ 大脳皮質・視床からの入力部、 運動機能、意思決定などに関わる
黒質緻密部からの A9ニューロンによるドーパミン作動性出力は、線条体に修飾的に投射される。
被殻の内側には、淡蒼球(外節、内節)があり、GABA(ギャバ)作動性ニューロンが作用する。
線条体、淡蒼球、黒質などを含む包括的な領域で、μ受容体などの 多くの向精神薬の受容体が大脳基底核に高密度に分布している。
『大脳皮質→大脳基底核→視床→大脳皮質』 のようにつながる4種のループ(相互関係は薄く、並行して機能)が存在する。(運動系ループ、前頭前野系ループ、眼球運動系ループ、辺縁系ループ) 大脳基底核の変性により パーキンソン病や 手足の震え、ハンチントン舞踏病などが引き起こされる。薬物中毒や、習慣化した行動などにも関わっているといわれる。
(↓ 2. 運動系ループ(A9ドーパミン系が調整)、 側坐核への入出力(一種のループ、A10ドーパミン系が調整)
* アダムとエバが作られた時、神様から 「エデンの園を管理」 する仕事が与えられ(創世記2:15)、 人は
「動物たちを支配する」(創世記1:26) よう仰せつかったように、発達した大脳により、自分の中の”ワニの脳”を従わせる必要があります。
* 人は 胎児から3歳以下では死ぬと無条件に天国行き。しかし、4歳以上は、御子イエス様の十字架が必要です。(・・・主が言われたことで、また天国見聞録の信頼のおけるものも同様なことを言っている) ヒトは、出生時に脳細胞はほぼ大人と同じ数(大脳皮質で140億個)ができていて、それが成長と共に
相互の連関がついてきます。20歳以上では徐々に脳細胞が死滅(一日10万個死ぬ、80歳までに22億個)していきます。しかし、この相互連関や可塑性(周りのニューロンが代替する)の機能があるので、大人になって知能が著しく下がるということはありません。 主は、元々
(たとえ本能的なものであっても、)すべて良いものとして造られましたが、この
ニューロンの連関の中に、
「原罪」 ・・・ ”神の立場に立って良し悪しを規定し、神から離れて自分の計画を進めていこうとする性質”
・・・ が発現していくのが分かります。
* 「見よ。 人はわれわれのひとりのようになり、良し悪しを知るようになった。」(創世記3:22)
「(カインに対し、)罪は戸口で待ち伏せしてあなたを恋い慕っている。
しかし あなたは、それを治めるべきである。」(創世記4:7)
「主の御声に聞き従わないことは、偶像礼拝の罪。」(Tサムエル15:23)
「あなたのしようとしていることを主にゆだねよ。 そうすれば、あなたの計画はゆるがない。」(箴言16:3)
「私たちの義はみな、(月のもので)汚れた衣類のようです。」(イザヤ64:6)
「自分のいのちを見出す者はそれを失う。 主のために 肉のいのちを捨てる者は、神のいのちを見出す。」(マタイ10:39)
「義人はいない。一人もいない。」(ローマ3:10)
やや古典的な ブロードマンの脳地図による、ヒトの大脳の活動場所を見る。
体性感覚野は伝統的に、3、1、2野と まとめて呼び(=中心後回とも言う)、この細長い領域の第W(4)層の部分(皮質は全部で6層構造)に、すべての体性感覚が投射されている。
感覚神経線維の Aδ繊維(鋭い・速い温痛覚)、C線維(鈍い痛覚、内臓痛、遅い)、Aβ線維(触圧覚) (
・・・ 体性感覚の1対1の対応がつく明瞭な部分が、全部この薄っぺらい、狭い領域に集まっている!) 一次運動野(第X(5)層が厚い)と合わせて、ホムンクルス(感覚、運動)と呼ばれる模式的な図形に対応している。
17野(一次視覚野)も、投射を受ける 第W層が厚い。
● 発生初期の古皮質である島皮質(13野)では、味覚のほかに、情動的・社会的痛みの感覚に対応して 活性化する。(MRIなどで観測) これは、感覚ニューロンの
C線維が延髄から別れて、中脳水道の周りの灰白質(PAG)を通り、視床の髄板内核群でニューロンを変え、そこから島皮質に修飾的な鈍い痛みを投射する。
また C線維は、網様体(意識)、前頭前野(覚醒)、辺縁系(情動)にも多角的に投射している。(↓ 3.)
● 前頭葉斜め上側部の 46野は、色々な情報を総合して 運動野や大脳全体に指令を出す、意思決定の最高司令部の役割を持っている。 ただし、ここのニューロンのほとんどがノルアドレナリン性なので(大脳皮質のニューロンの多くは興奮性のグルタミン酸(66−88%)、他は抑制性のGABA(10−30%))、
たとえば催眠術の第一段階である”リラックス”によって、ノルアドレナリンの量が減少すると、46野の働きがほとんど停止する場合がある。(催眠術にかかりやすい人(5人に1人)とそうでない人との個人差がある) その時 耳から人の声による指令が与えられると、脳が46野からの指令と勘違いして、その通りに行動してしまうようになる。 (by.澤口 北大助教)
深い催眠のレベルになると、感覚さえも操られてしまう。(=感覚移動) その感覚が圧触覚であれば、島皮質(13野)が圧触覚として、味覚であれば島皮質が味覚として
認識する。(レモン、梅干しが甘い、ゲテモノが旨い、など)
* 同様に、「霊的な指示」(霊が聴覚野・言語野・視覚野などに語る)もそのようにすると考えられます。 「神」からの場合(語りかけ)と、悪霊からの場合(惑わし・憑依)とを 見分ける必要があります。 原罪が入る前の人間は、(罪がないので神の前に平安で、リラックスして、)普通に
「主」の御声を聞いていました。
(→ (2) 臨死体験による死後の世界観)
● サルに無く ヒトにのみ特異的に発達している4つの箇所(by.「POPな脳科学」p199)があり、 10野(未来予測、計画)、11野(意思決定、認知処理)、38野(言葉の意味記憶、顔・表情の認証、他者の心を推察)、40野(単語の意味理解、空間把握(抽象的)、信仰?)。
言語中枢は、右利きの人はほとんど左脳のみ活動。 かつて言われたほどに 右脳は働いていない。(左利きの人は30−50%が右半球に持つ。)(wiki、脳機能局在論)
* それぞれは、 10野: 「永遠」についての概念の理解、未来の啓示、「預言」
11野: 「意志」の分野を神様にゆだねる=「異言」、「聖霊のバプテスマ」
38野: 「言葉」の意味記憶、「ことばの神」とのコミュニケーション、隣人愛・配慮
40野: 「単語」の意味理解、神への信仰・礼拝
に対応します。 動物はその場その時の刹那で生きているに過ぎず( ・・・ サルの動体視力は人間の10倍、イヌの嗅覚の鋭さは人間の1億倍?、
ワシやタカの視覚の解像度8倍(網膜細胞ヒトの8倍))、一方、人は 永遠の時間の流れというものを理解することができます。
また、神は 「ことばの神」(ヨハネ1:1)であり、人は「言葉」によるコミュニケーションを非常に発展させています。 サーカスの犬などの動物は、図形を形として区別しますが、その意味を理解していません。
オウムは運動のみの発声です。 人の神に対する 具体的な「信仰」の土台は、神の「ことば」で、長い文章ではなく 比較的短い単語の羅列です。
このように 脳の構造は、人が創造された時、 「神と似た者として造られた」(創世記1:26) ことを如実に表していると考えられます。
2. 快楽 と 報酬系の回路:
脳内の健全なドーパミンの放出活動こそは、神様が特に祝福して与えてくださったプレゼントで、”やる気”、”充実感”、”悦び”、”生きている実感”などの、人間の(あるいは動物の)生きている意義を感じさせる部分であり、ドーパミン・ニューロンを持つ哺乳動物以上の生き物は 大体 ドーパミンの放出を目的に生活している、と言っても過言でないと思われる。(ラットの脳に電極を埋め込み、ドーパミン放出と 摂食の どちらかを選ばせる実験をしたところ、死ぬまでドーパミンを選び続けたという。) ・・・ 健全ならば「みこころ」、行き過ぎれば「罪」。
腹側被蓋野(ふくそくひがいや、VTA): ・・・ 中脳の腹側にある大脳基底核の 赤核(A8)や黒質(A9)に囲まれた内側の領域で、系統発生的には古い部分。
ここには A10細胞集団と呼ばれる ドーパミン作動性ニューロンが多く存在し、A10神経(快楽神経)の起点であり、2つのルートに出力され、 1.中脳辺縁投射、 2.中脳皮質投射
を形成している。これらのニューロンの活動は、報酬を得られた場合のみならず、報酬予測(報酬そのものでなく、報酬を期待する”予測”で反応)にも関わっていると考えられている。
1.中脳辺縁系(腹側被蓋野 → 側坐核、海馬、扁桃体 )
2.中脳皮質系(腹側被蓋野 → 前頭葉 )
側坐核(そくざかく): この領域が脳の「快楽中枢」であることが知られている。(1950年代、ラットの電極実験、摂食や飲水もせずにレバーを押し続ける) 腹側被蓋野からのドーパミン性の入力により、側坐核の活動を活発化させる。 食事やセックスなどの多彩な報酬や、音楽の感情の調整などともA10神経の活性化に関連している。
前頭連合野へのドーパミン作動性の刺激信号は、前頭前野系ループを活性化して、精神活動の高揚や 創造性に働くといわれる。(その逆の、ドーパミン不足が”抑うつ”症状や、薬物の禁断症状)
・ 脳内神経核の A1〜7: ノルアドレナリン作動性、 A8から17: ドーパミン作動性、 ドーパミンはノルアドレナリン、アドレナリンの前駆体。 (A6:
青斑核、 A8: 赤核後核、 A9: 黒質緻密部、 A10: 腹側被蓋野、 A11:
間脳後部(視床下部 背髄路)、 A12: 弓状核 後部、 A15: 嗅球)
・ 報酬系の形成(ヤコブレフの回路): 1) 側坐核の「快」の情報を 扁桃体が認識 → 海馬へ短期記憶を格納 → (再び)側坐核へ、 2) 側坐核の興奮 → 淡蒼球・内節(GABA作動性ニューロン) → 視床・MD核(GABA) → 前頭前野へ(覚醒、興奮) → (再び)側坐核へ
・・・・ ∴ (前頭葉を通して”学習”することによって、)満足よりも
期待(=報酬の予測)で ドーパミンが出るようになる (↓ 下図・右)
● 脳内麻薬の βエンドルフィン(脳下垂体前葉と視床下部弓状核のニューロンから分泌)も、大脳基底核・腹側被蓋野の
μ受容体(μ1: 鎮痛と 多幸感、 μ2: 呼吸抑制、痒み感、鎮静、依存性形成など)に働く。 多幸感については、(腹側被蓋野にある(抑制性の)GABAニューロンを抑制することにより、) A10神経のドーパミンを遊離させ、側坐核に作用し 多幸感をもたらす。 βエンドルフィンやモルヒネ等による多幸感の原因は、全く同様に、ドーパミンが側坐核に作用することによる。
● 好きな音楽を聴く時(背筋がゾクゾク感じるような?場合)、 1.それを期待するとき: 尾状核が活性化、 2. 実際に聴く時: 側坐核が活性化 (by. fMRI (*)、 2011、カナダ・マギル大)
・・・ 音楽によって喚起される「高揚感」「緊張」「予感」「驚き」「期待」などの感情が関与するといわれる
* fMRI: 機能的磁気共鳴画像法 ・・・ 1)酸素交換反応で一時的に増加する脱酸化ヘモグロビン(常磁性体)の変化(cf.酸化ヘモグロビン(反磁性体)は太い静脈では反応しない) + 2)(毛細血管で)総ヘモグロビン・血流量変化 の強調画像法による可視化。
● 側坐核の働きが強い者ほど 「うそ」をつきやすい、という研究結果がある。 前頭葉(自制)よりも側坐核(欲望)のほうに信号が行き過ぎて、報酬をもらうために
うそをついて正当化する傾向が強い? ただし、相関係数は 0.5程度であり、やや相関がある
という程度で、そんなに単純でない。 うそつきのメカニズム解明なるか? (by. fMRI 2014 京都大)
* 「偽りの父であるサタン」(ヨハネ8:44)は、自身の中に「真理」が無く、「高慢」(イザヤ14:13、14)による快楽の情動が 「大脳」による制御系によって抑えきれず、神に反逆して 全天使の3分の1を誘惑して、神に対抗する「偽りの世界」を創始してしまいました。 その後、御子イエス様の十字架により、「サタンの頭(=大脳に相当する部分)は砕かれ」(創世記3:15)、「ヘビ(=ワニの脳に相当する部分)」のように情動のみで動くような(より危険な)存在になっています。
● 覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミンなど)、コカインなどの嗜癖性物質は、直接、腹側被蓋野のA10ニューロンの受容体に結合して、1)
ノルアドレナリンとドーパミンの放出促進、 2) 回収を妨害する。 するとA10ニューロンの受容体がドーパミンの曝露を受け続け、覚せい剤の場合、たったの4日ほどでドーパミン受容体 D1 の数が減少する。 すると、快感や”ハイの状態”はここまでで、覚せい剤が切れる頃(アンフェタミンの半減期10時間、コカイン1時間)にドーパミンが不足して、ひどい「離脱症状」が出てくる。 D1受容体は 前頭葉に多いので、不足すると「うつ」、「幻覚」などの症状も出てくる。
うつ病は、前頭前野のD1受容体の機能低下によるといわれる。
そして再び快感を得るために、また離脱症状から逃れるために、(犯罪を犯してでも)薬物の量を増やしていくという悪循環に陥る。
このようにして、大体2か月ほどで”廃人”になるといわれる。 ・・・・・ ヒトラーの最後の数年間は、ほとんど廃人同様(パーキンソン病)で、藪医者のモレルが毎朝注射する覚せい剤で
元気を取り戻し、演説したり、戦争の指揮をとったりしていた。妄想、自信過剰による
大敗。
ニコチンについても同様のメカニズムで(腹側被蓋野のニコチン性アセチルコリン受容体に結合)、アセチルコリンが酵素によってミリ秒単位で分解するのに対し、ニコチンは分解しないので多量のドーパミンを出すことになり、受容体が不活性になり、離脱症状・再喫煙の悪循環に陥る。 依存性はヘロイン並み、しかし、身体・精神に対する”毒性”は例外的に低いので、未だに一般に販売されている。) (→ 2.ニコチン中毒の報酬系、3.糖質中毒)
(薬物の作用) ・ 天然モルヒネ →(血液脳関門) 2%しか通らない、 ・ それを加工した
ヘロイン → 65%通る
・ コカイン: 幻覚、 麻酔 (コカインを 副作用が出ないように加工した
リドカインは、典型的な局所麻酔剤に使用されている)
・ モルヒネ: 覚醒、 麻酔、 鎮痛、 また GABAニューロンを抑制 → ドーパミン放出による
多幸感 (ガン痛など、疼痛がある場合は κ受容体の作用で 依存性が出ない)
・ (ドーパミンそのものは 血液脳関門を通らない) → アンフェタミン、メタンフェタミン(覚せい剤)の形で通過後に
脳内にドーパミンを放出させる
● 運動系ループ: A9神経系(ドーパミン性: 黒質緻密部 → 線条体(被殻+尾状核、 D2・GABA作動性))により活性化される (↑ 左)
(直接路) 視床 → 皮質 → 線条体(GABA) → 淡蒼球・内節(GABA) → 視床
(間接路) 視床 → 皮質 → 線条体 → 淡蒼球・外節 → 視床下核(運動の調整) → 淡蒼球・内節、黒質・網様部(D1、GABA) → 視床(興奮)
・・・・ 風が吹けば桶屋が儲かる?的に複雑にぐるぐる回っている
・ パーキンソン病は、黒質緻密部から線条体へ行く A9 ドーパミン性ニューロンの変性によるといわれている。 大脳皮質が抑制されるので
無動の症状になる。 また、視床下核は、不随意運動を抑える働きがあり、ここが働かないと
左右反対側の筋肉が振戦を起こす。
大脳基底核の変性により パーキンソン病や 手足の震え、ハンチントン舞踏病などが引き起こされる。薬物中毒や、習慣化した行動などにも関わっているといわれる。