膨張宇宙の理論?



  ハッブルの法則?の発見(1929)、宇宙背景輻射の発見(1965・ペンジャンスとウィルソン)等の基礎の上に、現在の”ビッグバン宇宙論”と呼ばれるものが形成されていった経緯がある。 このうち、一般相対性理論と関連の深い部分のみを列挙し、膨張宇宙論の物理的な特性を調べ、この理論の結果が観測結果と矛盾していることを見る。



  1. 4次元空間中の3次元曲面(リーマン幾何学より)((注)これは純粋な数学)


  3次元の線素の一つとして、        ・・・・・ (1)
  とおく。 (r) = 1 ならば通常のユークリッド空間になる。
  接続係数のうち 0 でないものは、
                、
  リーマンの曲率テンソルは、   
  リッチのテンソルは、    
  (0 でないもの) である。
  したがって、空間の曲がりを表わす スカラー曲率は、   になる。

  特別な場合として、この曲率がすべての空間部分で定数(定曲率空間)の場合、 (r) と  が決まり、
                 となる。 C は任意定数で、 C が 0 でないと (r) は r = 0 で 0 となり、線素 ds2 が縮退するので、 C = 0 とおく。


  k = 0 の場合、 f(r) = 1 より、通常の3次元ユークリッド空間になる。

  1) k > 0 の場合; 

  4次元ユークリッド空間 (x、y、z、w) の中の3次元球面を、次のように書く。
                    
  これは、3次元極座標(r、θ、φ)で記述すると  x = r sinθ cosφ、 y = r sinθ sin φ、 z = r cosθ、 w = √((1/) − r2) であるから、
  線素  は (1)で、   と置いたものになる。この場合、 r の動ける領域が、 0 < r < 1/√k になる。この、
                             ・・・・・ (2)
で表わされる3次元空間全体の体積は、
  計量テンソルの行列式が  になることに注意して計算すると、
                     ・・・・ (3)
  となって有限である。
  体積が有限であるとは、これが閉じた空間になっていることを表わし、測地線も無限に伸びることは無い。( 0 < r < 1/√k)
  ここで、θ、 φ が定数で、r の方向に伸びる測地線を考えると、(τ を測地線のパラメーターとして、)
          これは積分できて、
   、すなわち、
                                            ・・・・ (4)
となる。これは、パラメーター τ が増大する方向に測地線をたどっていっても、sin カーブに従ってある地点で r が減少する方向に反転する。それは、τ = τ0 での初期速度 C’ の大きさによらない。

  2) k < 0 の場合;
        r の領域は制限無しで、3次元曲面の体積は無限大になる。 測地線の方程式の解は、
                                          ・・・・ (5)
となって、r は τ の増大と共に指数関数的に無限遠まで伸びている、開いた空間になっている。(2次元曲面の”鞍形”に相当する)




  2. 宇宙の観測結果による仮説:(これ以降は、仮説に無理があるので要注意!)


  (1) 多くの銀河からの光のスペクトルが、赤方に偏移している事実があり、 1+ z ≡ λ0/λ で定義される量 z を レッドシフト という。
  この解釈として、ドップラー効果によって”遠くにある銀河ほど速い速度でわれわれから遠ざかっている”、という宇宙モデルが考え出され、銀河までの距離 d と その後退速度 v との間には、  0  という単純な比例関係が成り立つという、ハッブルの法則(1929)と呼ばれるものが提唱された。ただし、ごく近い星雲中のセファイド(ケフェイド)型変光星の変光周期という”経験則”によって距離が割り出されるのみであり、遠い星雲までの距離の測定は不可能なので、この結果から外挿して他の大部分の星雲までの距離を予想しているに過ぎない。 このハッブル定数0 (しばしば h = 0/100で表わす)は、長い間 観測グループ間の食い違いがあったが、なぜか 最近は収束して
        0 = 71±7(km・s-1・Mpc-1) 、(h = 0.71±0.07)、  1Mpc = 3.2615×106光年 = 3.0856×1022
という(もっともらしい)値になっている。この逆数 H0-1138億年 が、宇宙の年齢の目安とされ、この爆発的大膨張による宇宙の創成の仮説”ビッグバン” と呼ばれている。

  (2) また、宇宙のどの方向からも等方的な強さの電磁波がやってくる 宇宙背景輻射が発見(1965)され、黒体輻射の温度として T = 2.7277±0.002 K (約3K)である。その輻射の等方性はきわめて精度がよく、方向による温度のゆらぎは、 凾s/T ≒ 10-5 程度しかない。
  これは、創成当時の宇宙に熱平衡状態にあった光が、ビッグバンによって広がった現在の宇宙に 均一かつ等方的に満ちていると解釈されている。
  ((注) ビッグバンと言っても、3次元宇宙のどこかに爆発の中心があるのではなく、その中にある均一性・等方性を保ちながら、4次元空間の中の3次元の事象の地平線が一様に広がったことを主張している。)


  一様・等方性とスケール因子の導入:  まず、3次元空間の一様性と等方性を仮定して宇宙の構造を調べる方法を”宇宙原理”と呼ぶ。この宇宙原理を満たす時空の計量は、FRW計量(フリードマン-ロバートソン-ウォーカー計量)と呼ばれているものがあり、次のものである。

          

            ただし、 a(t): 膨張宇宙の時刻 t によるスケール因子、 k : 空間の開閉を決める定数   ・・・・ (6)

  この計量の3次元空間部分の性質は、1.の(2)を調べたとおりである。実は、一様・等方性を満たす計量はこの(6)以外には無い。等方性についての自由度を調べると、
   = (x1、x2、x3) = (r sinθcosφ、r sinθsinφ、r cosθ) という座標に対し、3次元回転の直交行列 R を用いて、
              という回転変換を施しても、原点からの距離 r は不変であり、
           も形を変えない。
  また、  ( は任意の3次元定数ベクトル) という変換によっても計量の形が変わらない。この変換は、k = 0 の場合、普通の平行移動  である。
  このように、回転の自由度3個と 並進の自由度3個の、合わせて6個の自由度の数だけ計量の形を変えない変換が存在し、3次元空間の場合、これが最大限 対称な空間であることが知られている。(N次元空間の場合、 N(N + 1)/2 個の計量の形を変えない キリング・ベクトル が存在する。)


  スケール因子と レッドシフト、ハッブル定数との関係:  光の経路は、 ds2 = 0 だから、光が r 方向へ進むとして、(6)で dθ = dφ = 0 とした式を積分して、   となるが、この光よりも振動数の1周期だけ遅れて放たれた光が、時刻 t + δt に銀河を出発して、時刻 t0 + δt0 に地球に到達したとすると、 光の経路の距離は同じだから、   となる。
  すると、 δt /a(t) = δt0 /a(t0) となり、光の波長の比は周期 δt0 、δt に等しいから、レッドシフトを z として、

                          1 + z = λ0/λ = a(t0)/a(t) 
  を得る。
  a(t) を現在の時刻 t0 付近でテイラー展開すると、 1/(1+ z) = a(t)/a(t0) = 1 + H0 (t − t0) − 1/2 q0 02 (t − t02 + ・・・
となるが、ここで、               
を定義している。この 0ハッブル定数0減速パラメーター を表わし、膨張宇宙のスケール因子 a(t) との関係となっている。




  3. フリードマン方程式と宇宙論モデル:


  比較的少数のパラメーター(ハッブル定数 H0 、減速パラメーター q0 、エネルギー密度 Ω0 、宇宙定数 Ωvac 、(バリオン数と光子の数の比 η )など)によって、初期宇宙を記述することができる。

  まず、FRW計量(6)を、アインシュタイン方程式
                  
に代入して、膨張宇宙のスケール因子 a(t) を具体的な関数形として求める。エネルギーテンソル μν は、等方性より、
             を用いる。 ( は物質のエネルギー密度、 P は圧力)  
 
  また、これらの量は、一様性より、座標によらず、時間のみによるとする。(cf. 中性子星内部のエネルギーテンソル)

  FRW計量(6)から、 接続係数(0 除く):
        
  リッチのテンソル:
         
  スカラー曲率:
             となる。したがって、アインシュタイン方程式の
  (μ、ν) = (t、t) の成分は、
                  (フリードマン方程式) ・・・・ (7)

  (μ、ν) = (r、r)、(θ、θ)、(φ、φ)の成分は、
                   となる。



  次に、 ∇μμ = 0 という条件を与えると、これは (t)3 に比例する微小体積中において、エネルギー変化と圧力 P が釣り合っている条件を表わしている。
       
                                                                    ・・・・・・ (8)

  初期宇宙論では、物質のエネルギー密度 と圧力 P との間には、 (t) = w(t)  という形の状態方程式を考える。
  釣り合い式 (8)にこれを代入すると、   (t) ∝ (t)-3-3w    という比例関係となるが、w の値によって次のように呼ばれる。たとえば、w = 1/3 の輻射優勢の場合は、P = 1/3 となって 質量の無い光子の集団の状態方程式と同じで、質量に比べ充分大きなエネルギーをもった状態である。これはエネルギー運動量テンソルのトレース μμ = 0 となる条件である。
       

 w = 1/3 輻射優勢 P(t) = (t)/3 (t) ∝ a(t)-4
 w = 0 物質優勢 P(t) = 0 (t) ∝ a(t)-3
 w = -1 真空、宇宙項の場合 P(t) = −(t) (t) ∝ const

  現在0の宇宙のエネルギー密度を 00) とおくと、この比例定数が決まり、 a(0) ≡ a00) ≡ 0 として、
           、  そして、現在の 0 が、 臨界密度  (/2 ≒ 1.88×10-29 2 g・cm-3) よりも大きいかどうかで、 フリードマン方程式(7)の左辺  の正負が決まる。すなわち、宇宙の大局的性質として 宇宙空間が3次元的に開いているか・閉じているか が、重力をになうこの密度 0 で決まる
  また、フリードマン方程式(7)の初期条件は、t = 0 において (0) = 0 、すなわち、宇宙の始まり(= ビッグバンの時刻)では 宇宙のスケール因子を 0 とおく。

  * ただし、このエネルギー密度の寄与は非常にクリチカルで、もし宇宙が150億年膨張しつづけたとすると初期宇宙の密度の臨界密度に対する比 E(0)/Ec(0) は1からのずれが 10-60以下でなければ現在の 曲率 ≒ 0 の(平坦な)宇宙は形成されないことが知られている。ごくわずか小さければ宇宙は散逸し跡形も無くなり、また、ごくわずか大きければ途中ですぐに潰れて(ビッグクランチ)しまう。
  したがって、ビッグバンの時の輻射優勢と物質優勢の絶妙なバランスによってこの平坦な宇宙ができたのは、あまりにも確率の低い、非常に特別な偶然であることになる。(平坦性の問題
  さらに、銀河のシミュレーションによると、銀河の回転する腕をつなぎとめておく重力のためには、その10倍ものダークマター(暗黒物質)を想定しなければならない。さらに銀河団をつなぎとめるためには100倍必要である。 ところが、観測による現在の宇宙の密度は、このダークマターを入れても臨界密度の10〜20%しかない。このように、現在の想定されている 0 はビッグバン理論に全然合っていない。

  (ここまでで、パラメーターは、FRW計量のパラメーター 、宇宙定数 Λ 、状態方程式を指定する w 、現在のエネルギー密度 0 、となる。)




  4. 宇宙の年齢の算出:


  関数 H(t) ≡ /(t) の 現在の時刻 0 における値は、ハッブル定数 0 である。この H(t) を用いると、フリードマン方程式は、
                                           ・・・・・ (9)
                       ただし    となる。
  また、現在の Ω を Ω0 とすると、フリードマン方程式は、

          ただし   
                                                                 ・・・・・・ (10)
となり、FRW線素に含まれていた が入っていない式になっている。

  現在の測定可能量として H0 、Ω0 を採用すると、 a(t)/a0 として、(10)を 宇宙の初期 から時刻 t まで積分すると、
      
  したがって、宇宙の初期( x ≒ 0 付近)における、右辺分母の -1-3w の項、すなわち、w が宇宙の年齢に大きく寄与するので、
        であり、
           w = 0 の場合: (t) ∝ 2/3 (物質優勢) 、  w = 1/3 の場合: (t) ∝ 1/2 (輻射優勢)  となる。
  
  一方、フリードマン方程式中の  による 空間の曲率の効果 (9)の kc2/2 の項は、宇宙の初期の段階では、Ω0 が1よりも大きいか小さいかによらず、宇宙の年齢に対する寄与は小さい。(r が非常に小さい時、1 − kr2 ≒ 1)


  宇宙の年齢 0 と Ω0 、Ωvac との関係を計算する。まず、物質優勢(MD、w = 0)の場合、
  宇宙定数 Λ = 0 (すなわち、Ωvac = 0)とすると、解析的に積分できて、
  Ω0 > 1 の場合: 積分変数を x = Ω0(1 − cosθ)/2(Ω0 − 1) とすると、
             
  Ω0 < 1 の場合: 積分変数を x = Ω0(coshθ− 1)/2(1 − Ω0) とすると、
             
  Ω0 = 1 の場合:    となる。
  現在の時刻 0 の レッドシフト z = 0 より、
  ∴    ・・・ (11)

  輻射優勢(RD、w = 1/3)の場合、Ω0 が 1 でないときは 積分変数を ξ = x2 として、
       
  Ω0 = 1 のとき、                                         ・・・・ (12)

  また、 宇宙定数 すなわち Ωvac00 との関係は、Ω0 = 1 の場合、解析的に積分できて、物質優勢(w = 0)の場合、
         で、
変数を ξ = √(1 + Ωvac(x3 − 1)) + √(Ωvac3) に変換すれば、
       ∴         ・・・・ (13)
が得られる。
  (11)、(12)、(13)をグラフにすると次のとおりである。
        
  したがって、グラフ(左)より、宇宙の年齢 0 は、Ω0 = 8πG/3c2(t0)/02 = 0 すなわち エネルギー密度が 0 の場合に最大値(H00 = 1)をとり、0 の増加と共に減少することになる。
   H00 = 1 のときの、ハッブル定数の逆数 H0-1 = 0.978 -1 ×109年 = 97.8億年/0.71 ≒ 138億年 が、宇宙の年齢の目安とされたが、実際はそれよりもかなり低い値であり、 Ω0 = 1、すなわち、臨界密度では、年齢はこの5〜7割になる。宇宙の中にある星(球状星団:100億年など)よりも年齢が若いという矛盾が生じることになる。

  また、宇宙定数 Λ (∝ Ωvac)は、初めアインシュタインが定常宇宙を正当化するために、全体にかかる斥力として方程式の中に導入したものである。(途中で撤回した) グラフ(右)から、膨張宇宙の年齢を引き伸ばす効果があることが分かる。しかし、その起源は全く根拠が無く、星と宇宙の年齢の矛盾を解消しようとするために人為的に取り入れられたものに過ぎない。最近の観測では、宇宙がわずかに加速度的に膨張していることが分かり、宇宙定数は再び見直されてきているが、その起源については相変わらず分かっていない。


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