相対性理論


 ドイツ生まれでアメリカに亡命したユダヤ人の天才的物理学者アルバ−ト・アインシュタインの名を知らない人はいないであろう。特殊相対性理論や一般相対性理論には現在でこそ多くの証明が与えられているが(時空の4次元表現、ブラックホールの存在、時間の遅れなど)、当時としてはあまりにも常軌を逸していた結果だったので、アインシュタインはこの理論によってノ−ベル賞を受けたのではないのである。

 特殊相対性理論から導き出される代表的な結果には、1)ロレンツ変換・・・互いに相対運動する物体の間には互いに他の、進行方向の長さが短縮して見え、時間が遅れて見え(注:時間が逆転するのではない)、質量が増大して見える関係(物質の速度は光速を超える事はできない)、 2)エネルギ−と質量の等価公式 E = mc2 がある。また、一般相対性理論からのものとしては、時空の曲がり、重力場の方程式などが挙げられる。

                理論式の詳細

 これらの驚くべき結果は、一つの実験結果、すなわち、真空中の光の速度はどのような慣性系(速度一定の系)にあって観測しても一定の値(c = 2.998×10**8(m/s))をとる事(マイケルソン・モ−レ−の実験)から導き出される。 (これに、物理的な原理(仮定)として、任意の慣性系におけるすべての物理法則は同じ事、が加えられている。また、一般相対性理論には、重力質量と慣性質量との等価原理とそれに基く重力場の幾何学的(テンソルによる)表現が与えられている。)

 理論の正しさは、人間の思索によるのではなく、客観的な実験または観測結果によって証明されなければならないが、最近までの多くの分野における観測結果は相対性理論の正しさを充分証明していると言える。以下、その代表的なものを挙げる。

 (1) エネルギーと質量の等価公式;
 さまざまな素粒子反応や核反応において、E = mc**2は通常用いられている。また、原子力発電所や原爆などのエネルギー収支計算の基準である。(広島型原爆の質量欠損は約1gと言われている。)

 (2) 素粒子による時間遅れ効果の観測; 
 宇宙からの陽子などの高エネルギ−の一次宇宙線は、上空約20000mで大気の原子に衝突してしてμ中間子を叩き出し、これが地上までやってきて観測することができる。ところが、このμ中間子は平均寿命が2.15μSと短く20000m移動する前に崩壊してしまうはずである。(光速としても、3×10**8×2.15×10**-6 = 645mにしかならない。) ここで、時間遅れ効果により、地上の短い時間に中間子が長い時間が経ってしまった形跡が残るとすると説明がつき、ロレンツ変換の式よりその速度は光速の99.9%以上である事がわかる。
                 
 (もし、光速の99.9%で飛行できる宇宙船があって、それに乗って5年間宇宙を旅して無事に地球に帰還したとすれば、地球の様相は112年先になっている。(ただし、過去に戻る事は出来ない。))

 (3) 重力場による光線の曲がりの観測;
 アインシュタインの重力場方程式の弱い重力場での解によると、太陽重力場による光線の曲がりは刄ニ=4GM/RC**2 となり、太陽の半径付近で1.75(sec)であった。
 (G:万有引力(重力)定数6.67×10**-11(N・m2・kg-2)、M:太陽の質量1.99×10**30(kg)、R:太陽の半径6.96×10**8(m)、C:光速)
              
 また、非常に遠くにあるクェーサー(星雲の初期の状態)の像がずれて見える重力蜃気楼も、何らかの質量体(暗黒物質)が作る重力場によるとされている。

 (4) 重力場での時間の遅れの測定:
 コバルト57(Co57)が崩壊する時放射するγ線(光子)の振動数は、線源を一定速度(数cm/s)で移動させる時ドップラー効果によりわずかながら変化して見えるが、この振動数のわずかに異なるγ線の振動数の差を メスバウアー効果(Co57自身を共鳴吸収体とする きわめて高分解能の検出法)によって測定できる。
 このメスバウアー効果を利用して、数十cm〜数m高さの違う(重力場がごくわずかに異なる所にある)γ線の吸収強度が重力場によって変化して見える事、すなわち重力場の強い方が時間の進み方が遅く振動数が低下する事が測定された。

  

 (5) ブラックホ−ルの実在;
 重力場方程式のシュワルツシルド解は球対称の質点のまわりの重力場を表すが、外から中心に向かって近づくと、r = 2GM/C**2のとき時間の遅れが無限大になる。非常に強い重力場の為この半径(シュワルツシルドの半径あるいは事象の地平面)内からは光すら外に出る事は出来ないのでブラックホールと呼ばれ、宇宙のどこかに星の最終的な姿として存在する事が予言されてきた。
 ブラックホ−ルは最近相次いで発見されている。白鳥座の連星系にあるブラックホ−ルは70kmの径の中に地球の1900億倍の質量が集まっており、もう一方の星から物質を吸収し強力なX線を放射している。また、1997年、独、米が独立に、射手座ににある銀河系の中心部に太陽の250万倍の質量の巨大なブラックホ−ルがある事が報告された。