5. 正しくない理論について


 ここで、EPR問題にかかわって、町田・並木理論以外の、歴史上現れてきた解釈理論を検証してみよう。

 1) タイムマシンの理論(多世界解釈);

 古典物理学では起こる事象(歴史)は唯一であり、仮に過去へさかのぼって事象に影響を与える事ができたとすると、未来における事象が変わってしまう。(不一致性パラドックス
 したがって、過去にさかのぼる事は原理的に禁止されている。
 (ただし、相対論によると、互いに未来へ行くことについては、時空が歪むだけで無矛盾であり通常行われている事である。)

 この基本的なパラドックスを解決するのが、量子論の多世界解釈である。
 多世界解釈は、エベレットの多重宇宙により始まり(1957)、量子論の確率解釈に対して、実在論かつ無矛盾であるように無理やり導入された解釈である。
 すなわち、量子一つ一つに対してそれぞれの宇宙が存在し、量子力学的不定の状態からその一つの枝である宇宙へ移行し”実現する”というものである。
 量子力学をこのように解釈すると、たとい過去に移動したとしても別版の宇宙を認めるのだから無矛盾である。
        

 過去にさかのぼるメカニズムとしては、相対論によるブラックホールのいくつかの解に現れる”CTC”((closed time-like curve; 閉じた時間の輪)と呼ばれるものに可能性があると言われている。(*)


 さて、多世界解釈はこのように非常に不自然なものであり、特に、無限にある宇宙のどれに観測者の意識(観測結果を認識するもの)を置くか、という問題が発生する。宇宙の数だけではなく意識の数も無限大に発散してしまうからである。
 観測結果を認識し共有するものは一つ、それゆえ、宇宙は一つ、事象は一つである

 したがって、多世界解釈は、実在論を無理して押し通すために導入された、素粒子のみに観点を置いた”主観論”の一つにすぎない。主観論は何でも自分の好きな理論を作り上げることができる。



      * CTCについて;

 アインシュタインの重力場方程式の解のいくつかは、重力場における時間の遅れや空間の曲がり、ブラックホールの実在などの各方面において成果を上げているが、中には、時空の設定や原理に反する解の物理的意味が主張されているものがある。

 @) カート・ゲーデルの解 ・・・ 非常に速く(現実的ではない)回転するブラックホールの解の一つで、時間軸が閉じた輪になっているもの。(非因果律的解)

 A) NUT解 ・・・ 高次元におけるらせん形の解で別版の時空が存在する形。

 @)は、物理学の基本原理である”時間順序保護原理”に反するから、物理ではない。当然、パラドックスが発生する。(それゆえ、多世界解釈が用いられた。)
 A)は、仮設定ではなく、物理的に実質的な高次元を設定しているので、3次元+時間という物理学の基本設定からはずれている。相対論も、電磁気学も、量子力学も、本質的に3次元+時間の設定内にあり、第4次元目の物理的な空間座標というものは存在しないのである。
 (もっとも、この”CTC”を主張する範囲は、素粒子やブラックホールの近傍などに限定され、とても、一般的なタイムトラベルのイメージとは程遠いものである。)


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