5. コンピューターと神



  前述のとおり、サムシンググレートが存在することが明らかになってきている。では、神様は、果てしなく知的で正確無比な思索をもつので、ある意味でコンピューターのような存在なのだろうか?コンピューターは”神”になりうるのだろうか?


  コンピューターについては、しばしばSF小説などによってその将来の極端な姿が想像されている。たとえば、

  ・ 万能マシンのアナロジー:

  一定の公理と推論形式に基づいて、すべての数学的真理を証明可能にする数学システム ・・ ”数学的万能マシン” ・・ が完成した。このマシンは、証明可能命題を順番に組み合わせて新しい定理を証明し、次にそれらの定理を組み合わせて新しい定理を証明するといったような規則的な方法で、全ての”真理”を証明し続けた。全ての数学の問題は、待っているだけで必ず解けるのである。
  数学者に続いて、物理学者たちは、ついに、一般相対性理論と量子力学の統一理論を発見し、あらゆる法則を25の命題にまとめた。これらの法則もこの万能マシンに組み込まれ、さらに、生物学、心理学、社会学などの理論も統一化され、”科学的万能マシン”が完成した。宇宙の正確な年代、エネルギーの効率的生成、人口問題や食糧問題にも、全てこのマシンが計算し正確に答えることができる。この時点で、”科学的万能マシン”は、全地球上にネットワークを張り巡らし、経済予想から気象情報までのあらゆる情報を処理した。
  さらに、文学や絵画や音楽の芸術性に共通する法則が発見され、完全な美学システムが構成された。このシステムも科学的万能マシンに組み込まれ、ついに、”普遍的万能マシン”が完成したのである。
  もはや人間は何もする必要が無くなり、何かを知りたければ、聞くよりも早く万能マシンが答えた。なぜなら、このマシンは、すべての人間の行動を正確に予想できるからである。マシンに敵対することはもちろん不可能である。全ての人間の考えていることも予測され、マシンが未然に防いだからである。”普遍的万能マシン”は、地球を完全に制御し、全ての問いに答え、芸術作品を生んだ。もはや人間に残されているのはスポーツだけだった。(by. ルドルフ・ラッカー、数学者)
  ところが、この”万能マシン”は、ある日いっさいの問いかけに応じなくなった。すべての事についてこの万能マシンに依存する地球上は大混乱に陥った。多くの技術者がマシンを隅から隅まで調べたが故障箇所は全く無い。あまりにも複雑なシステムなので、精神科医が治療に当たるが、それでも返答しない。そこに一人の技術者が来て、あることを言った。すると、途端に全システムが起動し、”万能マシン”は正常に戻ったのである。 ・・・ その言葉は、”PLEASE”だった。。。(by. アイザック・アシモフ、SF作家・ユダヤ人)


  もちろん、ゲーデルの不完全性定理は、このような”万能システム”が論理的に不可能であることを証明している。”神”のような、無矛盾、かつ、完全な、理想的なコンピュータは存在しないのである。自然数論のシステムが完全ではないことが証明されているので、それを含む数学システム全体やアルゴリズムも不完全である。この意味で、不完全性定理は、我々にとって、永遠に謎が尽きることがないことを保証したといえる。
  (* ♪コンピューターに守られたバベルの塔は不完全・・・)



  さて、コンピューターの基本的な構造を見てみよう。

  1) ソフト面からは、「計算可能性」についての不完全性:

  ゲーデル・テューリングの不完全性定理: すべての真理を証明するテューリング・マシン(= コンピューター)は存在しない(1936)

  は、アルゴリズムによる思索の限界、すなわち、コンピューターの理論的な限界を示している。たとえば、BASIC言語で、
        (この場合は、自然数を、1、2、3、・・・のようにプリントする)
  は、step4 から step2 へのジャンプが論理学の「原始帰納関数」になっていて、”無限ループ”になって計算がいつまでも終わらない場合があることを示している。同様なアルゴリズムの形態は、複数のラインに対する相互言及的なものも含めいくらでも考えられる。(* WINDWS 98 はよく止まる。2000ではある程度改善された。)

     

  2) ハード面からは、コンピューターの構成:

  コンピューターは、CPU(中央演算処理装置、クロック発振器を含む)、各種演算回路、記憶回路(RAM)、ハードディスクなどの大規模記憶装置などによって構成されている。
  普通は、CPUとクロック(基準信号)発振器は、1台のコンピューターに1つである。(2つのCPUをもつコンピューターも検討されたが、メリットは無かった。) コンピューター全体の信号の流れを進めていくのはこの同期のためのクロック信号によるのであり、全体の計算速度はクロックの発振周波数に依存する。
  情報を一時的に記憶して保持する”シフトレジスタ”を構成する”フリップ・フロップ(シーソーの意味)回路”は、電源が入りクロック信号が来るまでは、”0”とも”1”ともいえない”不定”状態である。さらに、クロック発振回路は、”無安定マルチバイブレーター”とよばれる”不定状態”そのものである。すべての基本的なコンピューターの回路は、デジタル回路の基本要素である NAND(NOT + AND)回路で構成されている。

  


  この発振器のメカニズムは、ちょうど論理学でゲーデル命題が生成するのと同じ原理であり、出力の論理を反転してアンプに再入力する(=自己を否定的に言及する)ことによって発生する「不定状態=パラドックス(矛盾)」であり、それが時間と共にパルス信号となって永続的に発振するのである。
  すなわち、@ 言語によって発生する自己言及、相互言及パラドックスも、A 自然数論において発生するゲーデル命題も、B アルゴリズムで発生する無限ループも、C この論理回路の発振のメカニズムと同じである。


      言語               数学     プログラム      デジタル回路   
 担体    階層構造をもつ言語     自然数を含む帰納的な関数   アルゴリズム  NAND回路の組合せ 
 方法 自己・相互を否定的に言及 それ自身のゲーデル数をもとの式に代入  ジャンプ・ループ     負帰還回路
 結果    パラドックス(矛盾)   不完全性(証明も反証もできない)   無限ループ   不定状態・発振

  *  論理学では、”偽、真”が”0、1”、 自然数論では、2進法で”0、1”、 論理回路では、デジタル信号の”Low、High”が”0、1”となる。さらに、アナログ回路では、”0”と”1”、及び、その中間の価が取りうる。(→ 6.)


  したがって、4.で考察したように、ゲーデルの第1定理の対偶から、神様は、人間理性で捉えられない存在であり、その完全性(全知・全能)を認めれば、システムが自己矛盾しているはずの方である。「矛盾」を時間で掃引(そういん)すれば、”発振器”のようなものになる。だから、神様は、すべての源泉性をもつ、巨大なエネルギー源のような方であるといえる!


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