4. 生物の起源とサムシンググレートの存在



  (1) DNAの情報量:


  一つ一つの細胞の核内に2重らせん形の紐が対になって存在する DNA は、4種の塩基(A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン))が、ヒトの場合約30億個直線状に配列されていて、互いに他のらせんの A−T、C−G のように水素結合している。(単細胞のインフルエンザ菌は180万個(1995)) 核内にあるDNAは、m-RNAを転写して、核外のリボソームへ移動して細胞の働きを行う。(*)
  DNAに含まれる情報量は約1G Byteで、CD-ROM1枚分の長大なプログラムに相当する。(データ・ファイルでなく、プログラムそのものが1GB! 百科辞典にすると約1000冊分) それらがコードしている生物学的意味を解析するのが21世紀の生命化学の中心課題であると言われている。
  現在のところ、ヒトのDNAは30億塩基対、遺伝子は約5万個所、1個の遺伝子は平均2500塩基対だから、遺伝子の個所はDNA全体の4〜5%しか占めていない。残りの90%以上の部分がどのような働きを担っているかは良く分かっていない。

  また、単純にプログラムの規模だけではなく、コンピューターのソフトウェアは、統一されたある言語体系がなければ機械語に意味を持たせることができない。このような暗号を作り出すには、思考能力を持つ存在が、自発的に自由意志と、認知能力と、創造力を働かせなければならない。しかし、自発的に物質が情報を生じさせるシステム(自然法則や物理的プロセスや物質的現象)は我々が知っている限り存在しない。(ワーナ・ギット)

  不完全性定理によれば、発生における遺伝子の働きがある時点まで(自然数論を含む程度以上に)複雑になると、我々はその過程を”本質的に”捉えることができなくなる。ただ、結果としてどのような生物学的な対応があるかを知るのみである。 (人間理性で捉えられる神を”神”とするならば、)”神”は、物理学だけではなく、数学にあっても”サイコロを振る”のである。(チャイティン)(→ 理性の不完全性 2(4)


  ここで、DNAがいかに自然発生的に作られにくいかを試算してみよう。

  生物の構成物質であるたんぱく質の簡単なものは340個のアミノ酸が結合して構成されていて、アミノ酸の配列の仕方は 10の300通りもある。だから、最も単純に、必要な全ての材料がまわりに満ちている理想的な環境であると仮定しても、自然発生的にこのたんぱく質が生成する確率10の300乗分の1、すなわち、少しでも配列の異なる分子を1個づつ加えた総重量は 10の280乗グラム( = 地球の質量の10の253乗倍 = 全宇宙の総重量の 3×10の226乗倍)というとてつもない量になる。 まして、30億個配列されているDNAが自然発生的にできるわけが無い!。

  また、できるだけ進化モデルに有利に計算した結果でさえも、最も簡単な生物(ウィルスで塩基の数が100万個程度)が 3兆年(進化論的宇宙の年齢の200倍)の間に自然に発生する確率は 10の280乗分の1(=ほとんど全くの 0)だった。(マルセール・ゴレ、情報学者)
  この結果は、地球以外の他の惑星においても、宇宙人どころか 細菌のような単純な生命が自然発生する可能性すら完全に否定している。太陽のような星に1個の地球のような惑星があったとして(1000億の1000億倍=10の22乗個の地球)、これらのうちのたった一個の惑星に生物が自然発生する確率は 10の268乗分の1で やはりほとんど0である。
  ちなみに、太陽系では地球環境に最も近い火星の表面の土に含まれる生物の分析(放射性炭素をマーカーとして入れた養分の変化の追跡、呼吸によるガス組成の変化、光合成の有無)からは全く生物はいないという結果であった(1975・ヴァイキング1、2号)



  (2) DNAの起源:


  化学物質・有機物の合成は、1)材料を反応容器に入れ、化学平衡に達する(=閉じた系でエントロピーが最大になる)と、それぞれの反応物が必ずある割合で生成する。
           
  2)次に、必要な物質と副生成物とを分離する、という 2ステップの過程で行われる。
  すなわち、いかに初期物質を純粋にして、濃度(圧力)や温度 T をコントロールしても、熱力学的な理由から、どうしても余分な不純物が生成してしまうのである。

  有名な ユーレイ・ミラーの実験では、フラスコの中に、水、メタン(CH4)、アンモニア(NH3)を入れ、火花放電を加えるもので、その結果 1週間でアミノ酸が生成した。しかし、生成したアミノ酸は、光学異性体の ラセミ体(右旋性アミノ酸と左旋性アミノ酸が50%ずつの混合物)であった。生体を構成するアミノ酸はすべて左旋性であることが知られているので、ほんの少しでも右旋性アミノ酸が混入すると、新陳代謝のできない異構造のたんぱく質ができあがる。したがって、生物が発生するためには、少なくとも100%純粋な左旋性アミノ酸のみが材料として存在していなければならず、この実験は生命体の起源の説明にはなり得ない。

  その他どんな方法で合成しても、自然に100%左旋性の純粋物質が作られることは無い。(右旋性との混合エントロピー=0 になること) それを作るには、同じ左旋性の物質(左旋性の水晶など、目視で結晶形からその光学異性体一つ一つを分離する)に吸着させ人為的に極限まで分離するか、あるいは、初めからDNA・生命体が存在して それが自発的に混合物から左旋性物質のみを選択・摂取する方法しかない

  もし、DNAが初めから与えられていれば、酵素によって複製DNAをいくらでも増殖することができ、この方法は、化石からの古代生物のDNAの調査(**)や、微量な資料(血液、体液、毛髪など)からのDNA鑑定に用いられている。(PCR法(*))

  したがって、DNA と それを保持する生命体、及び、それらに適した環境の全てが揃って、絶妙なコントロールの元に(***)初めから存在し、それらを、同時に、瞬間的に創造した、”サムシンググレート”が存在する必要があることが結論付けられる。



    * PCR法(1985、米・サイキ);

  1) あらかじめ制限酵素によって必要な遺伝子部分のDNA断片に分断しておく。元になる鋳型DNAの両端の塩基配列約20個分に結合するDNAプライマー(複製DNAの原料)を化学的に合成する。
  2) 耐熱性のDNA合成酵素(耐熱性DNAポリメラーゼ)を 1)のプライマーに加える。これを高温(94℃)にすると、DNAは熱変成を受け割り箸の両端を割ったように、鋳型DNAの2本鎖は1本鎖のDNAに分かれる。
  3) 温度を60℃まで下げると、プライマーが1本鎖DNAの両端に結合する。
  4) 再び温度を72℃まで上げると、耐熱性ポリメラーゼが働き、(ズボンのチャックを付けるように)結合部の中間のDNA複写が行われ、2倍の2本鎖DNAができあがる。(DNA自身が、それぞれの配列に合うプライマーを選び取る。)
  5) 1)〜4)を1サイクルとして、これを n 回繰り返すと、2 の n 乗倍増殖する。(1サイクルの所要時間15〜20分、20〜30回繰り返すと、一晩で数十万倍に増殖する。)
  これを、ゲル内電気泳動法によって、それぞれの分子量の違いに応じて現れるDNAチャートを作り、紫外線を当ててパターンを比較する。


    ** 恐竜の再製?

  1994年12月、白亜紀の地層から取り出された恐竜の骨からDNAが取り出され、その塩基配列が報告された。それは、ヒトの遺伝子によく似ていて、半年後、複数のグループから否定的な結論が出された。この場合、ヒトの遺伝子の混入が原因であったが、PCR法は他の生物のDNAがわずかでも混じっていたらそのコンタミも増幅してしまう。

  コハク中の昆虫の保存状態は良いので、かなり古いものでもDNAが保存されている。(コハクを液体窒素で冷却しお湯を数滴かけると粉々に砕ける) 1992、約3000万年前とされる コハク の中のハチ、シロアリから回収したDNAの塩基配列を決定した、と発表された。(ジョージ・ポイナー ・カリフォルニア大バークレー校、ロバート・デ゙ュセラ ・アメリカ自然史博物館)
  また、1993 6、中生代白亜紀(1億2千万年とされる)のコハク中のゾウムシの一種からDNAの回収に成功し、1995 5、数千年前とされる コハク に埋め込まれていたミツバチの腹から細菌を抽出して培養に成功したと報告された。(ラウール・カーノら・カリフォルニア工科大)


  ただし、現在のところ、断片的なDNAの情報を知るところまでであって、各生物の姻戚関係がわかる程度であり、”ジュラシック・パーク”のように恐竜などを再製させることは技術的に全く不可能である。


    *** 物理定数とサムシンググレート:

  素粒子物理の立場から、物理定数の設定は、微妙にコントロールされていて、宇宙や物質の設定に非常に大きな影響をもたらし、値が少しでも違うと宇宙や元素は形にならない。
  たとえば、中性子の質量が、0.1%大きければ 炭素以上の大きな原子核が形成されない。したがって物質も軽元素しか存在せず 生命体は作られない。
  逆に、0.1%小さければ 全ての星が生成しても核融合にならず、すぐに中性子星やブラックホールに潰れてしまう。
  その他、生命体が形成される許容範囲は、電子で1%、核力の強い力で2%、弱い力で数%程度と見積もられる。(佐藤文隆、京大)


  炭素原子がは4つの結合手を持っていることが、分子の非常に長い鎖を可能にする”有機化合物”を形成する理由である。同じ第W族Aの珪素、ゲルマニウムなども4本手で炭素有機物に相当する化合物を作るが、それらが安定に存在する領域が非常に狭い。


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