4. 量子力学の正しさを決定付けた2つの実験



  量子力学の統計作用素の記述によって、2粒子の分離開始から測定に至る時間内の状態は、アインシュタイン‐ボームらが主張した すでに状態が確定している”実在”状態ではなく、波動関数の干渉を含む”純粋状態”であり、測定によって、それらが 相互に関連し合わない”混合状態”に変化することが示された。
  しかし、その実験的確認は、粒子線の再合成が技術的に難しく、また 高速度で反応する切替え素子が用いられるまで、長い間 思考実験のままであった。ようやく20世紀の終わり頃になって、光子についての偏光の合成によってではあるが、量子力学の正しさをはっきりと証明する実験結果が相次いで報告された。
  多くの議論を巻き起こした1つの歴史の流れの最後の最後に、答えが与えられたのである。これは量子力学を通しての主の証しの計画に他ならない。


  (1) 2光子偏光実験

  偏光はその振動面と偏光子のスリットとのなす角θにより、(0≦θ≦90°)分だけ透過する。
  では、光源の出力を絞って、一個の偏光が出るようにした場合どうなるだろうか。この場合、一個一個の光子が透過するかどうかは予想がつかない。ただ、統計的に、透過の確率がであると言えるだけである。

  次に、互いに別々の測定器に入る2個の光子(光子対)ではどうだろうか。
 実験結果では、光子1,2が偏光子を両方とも通るか、両方とも通らないかのどちらかであり、片方が通り片方が通らないということはなかった。
  つまり、光子が偏光子を通ることが確定する事には厳密な量子力学的な相関がある事がわかった。

      
  しかし、この時点ではまだ、量子と測定装置との光速以下の情報のやりとり、すなわち ボームの実在論による隠れた変数が存在する可能性がある。そこで、超光速の切り替えとなる切り替えスイッチを付けて、光速以下の情報のやりとりの可能性を無くした実験が行われた。
             (* アスペAspectら、仏、パリ大、1982)

                

   * 実験の詳細;

        切り替えスイッチ ・・・ 
    超音波を当てた水面によって作られる定在波を回折格子として用いる。 
             切り替え時間 ・・ 10nsec
             スイッチ間の距離 ・・ 13m(光速で40nsかかる)

        光源 ・・・・・ 
      カルシウムまたは水銀のエネルギー遷移による光子対による。(2価の原子)
      20ns以内に光検出器に入る2個の光子は同じ原子から放出されたものと見てよいとする。


  結果は、光子1と光子2はそれでも量子力学による相関を示した。
  したがって、EPR問題における量子どおしの情報のやりとりにおいて、光速以下で伝わる(すなわち、局所的な)隠れた作用機構は存在せず、実在論は完全に否定された。
  物質は真の不定性を現し、量子力学は完全に正しいと言えるのである。

      



  (2) 遅延選択実験

         (**米・メリーランド大、独・ミュンヘン大、各独立に実験、1993〜95)

  光子が1個ずつ出るように充分出力を絞ったレーザー光を、ビームスプリッターで互いに直交する2つの偏光に分け、それぞれ光路1,2を進ませる。光路1は高速の切換スイッチにより、粒子をカウントする光検出器の方向と、光路2からの光と合成して(このとき、光路1の偏光を90°回転させ光路2との振動方向をそろえる)干渉縞を観測する方向とに分けられるようにする。

                
   ** 実験の詳細

   光路長 ・・・・・・ 光路1,2共に 4.3m (光の通過時間 14.5ns)
   切換スイッチ ・・・ ポッケル・セル(電圧をかけると複屈折を起こす結晶で、偏光を90°回転させるよう調整)    + 偏光板
                    切換時間  ・・・ 9ns


  実験結果は、@ 粒子として観測するように切換スイッチを選ぶと、光子はビームスプリッターを素通りして光路1のみを通り、粒子として観測され、また、A 波動として観測するように切り換えると光子はビームスプリッターで2つの偏光に分けられ、光路1,2の両方を通って再合成され、干渉縞すなわち波動として観測された。
  そして、さらに驚くべきことに、光がビームスプリッターを出たはずの時刻より後に切り換えを行っても、同様の結果が得られたのである。
  つまり、後で何を測るかによって変わるのである。これは、見かけ上、光子があたかも切替えを予知していたような振舞いである。(注: 時間を逆行するわけではない)


  したがって、量子力学の主張がさらに強く”分離不可能性”(いわゆる超光速の遠隔作用)が示されたのである。

  1.量子状態は、超光速の遠隔作用測定装置の変化に応じて変化する。
  2.粒子性−波動性だけではなく、光の通り道も不定であり 純粋状態のパラメーターに含まれる。(***)


   *** 中性子線の分割・再合成の実験でも、干渉計中のどの経路を通ったかが不定であるという結果が出された。  ・・・  冷中性子パルサーを用いた遅延選択実験 (1998)京大炉,九大理,SPring 8


  *  光の再合成の相関実験の実際:

   ・・・ 障壁をトンネルした光子は、まっすぐに進んできた光子よりも、障壁の中で 1.7倍も速くなる?(1982)

  レーザー1光子パルスは、下方変換用結晶で2つの光子(非線型な光学特性をもつ結晶、エネルギーの半分をもつ2つの光子に変換)に分け、片方を障壁(1μmの多層膜、反射率99%)に通し、ビーム・スプリッターで再合成しそれぞれの方向で同時計測する。
   
  検出器の時間分解能 約 1ns の間に光が進む距離は 光路の全長程度なので、2光子が検出器に到着する時間差を測定するのに十分ではない。その上、実験の時間分解能は、不確定性原理 凾d・凾 >= h/4π により影響を受けるので、光子の波束の幅をできるだけ小さくしなければならない。さらに、25mm厚のガラスを通る時 波束の幅が4倍に広がってしまう。これでは全く測定不可能である。

  さて、ビーム・スプリッターで再び合う時、光子はボース粒子で 同一の場所に集まろうとするので、検出器のどちらかに入るよう計測される したがって、同時に到着しているときは、同時計数率は最小(理想的には 0)となる。
  そこで、障壁を通る時の位置の変化を、光路の長さを、同時計数率が最小になるように調整して測定することができる。

  この装置では 光の分散効果による波束の広がりを打ち消すことができる。光がガラス中を通る時、分散して光子の波束の幅がチャープして広がる(先頭が赤、後方が青)が、下方変換結晶で分けられた赤色がかった速い光子と 青色がかった遅い光子の可能性が干渉する時、速度の違いは平均化され 幅が広がる効果が打ち消される。

  測定の結果は、波束の中心値でとらえると、光路 1の障壁を通った約1%の光は、まっすぐに来た光路 2の光よりも先に検出される確率が高く、障壁内で約1.7倍光速より速くトンネルするように観測された。 しかし、実際は、赤みがかった先頭値は全く同時に到着しているので、相対論に抵触することは無い。
          
  


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