3−2  ラプラス方程式の導出


  ラプラス方程式(その解は調和関数)は、コーシー・リーマンの関係式(u と v は”調和共役”という)を微分して得られ、これと全く等価である。(さらに 5−3 で述べる コーシーの第1積分定理とも同等である。) したがって、あらゆる 正則関数(解析的な関数)の実部虚部のそれぞれは、ラプラス方程式の解である。

  正則性を表す一つの形である ラプラス方程式の特徴は、人間の直感(物理法則)を盛り込みやすい形式であり、これは 物理学起源の多くの主要なテーマを それぞれの理論の出発点になるほどに 非常にきれいな形で表現するものである。(”空間的表現”(ラプラス方程式) + 他の物理的要因の形で。 ただし、ラプラス方程式に何かをくっつけた式の解には 正則でない解も含まれる。(シュレディンガー方程式の”複素共役”な波動関数の解など))

  また、微分方程式を解くことは一般的に非常に難しい。それらの方程式の解には、正則関数の代表である指数関数exp 関数)が 常に ”基本解” として独占的に現われている。これは 思索的に直感する、というのではなく、特殊解として指数関数を初めから想定して、式に当てはめてみて確かにそうであると知る、という思索の展開の流れである。(「初めに ことば があった」)
  ・・・ 神の3定数(e 、π、i )による”キリスト”関数(キリスト=油( )注がれた者( ))は、自然の摂理を根底からあかしする!


  (1)  コーシー・リーマンの関係式の導出:


  関数の正則性・・・どの方向から微分しても同じ値になる・・・を評価する コーシー・リーマンの関係式は、複素関数についての微分の定義式から簡単に求められる。
  複素関数 f(z) について z0 における微分を求めると、
  1) x 軸から近づけると、
  
  2) i y 軸から近づけると、
  
  1)=2)で 実部 と 虚部 を それぞれ 等値とおくと、 コーシー・リーマンの関係式
                      が得られる。

  x 軸、i y 軸から近づけて同じならば、どの方向から近づけても同じになる。

   ex) ・ 共役複素数への写像 (z) = z* = x − i y (すなわち、u = x 、 v = −y ) では、
      となって 満たさないので、これは 複素平面のどの領域でも正則でない。
      ・ また、実数部のみを対応させる写像も 全面で正則でない。


  (2)  ラプラスの方程式の導出:


  コーシー・リーマンの関係式を それぞれ x と y で 偏微分すると、
           

  AとBより、また @とCより、それぞれ u と v (どちらも 実関数)についての 二次元の ラプラス方程式が導かれる。

           

  ここで、  を  演算子として、  ・・・ ラプラシアン と書き、 
          のように表すことが多い。  ただし  

  三次元の場合は、        となる。

  三次元のラプラシアンの極座標表示は、
              
  で与えられる。



  (3)  ラプラス方程式の適用:


  ラプラス方程式そのものは ベクトル場のポテンシャルを記述し、この式(右辺 = 0)だけで 様々な物理的なポテンシャルを表わすことができる。(たとえば、非圧縮性の流体の定常流、熱伝導体の定常温度分布、重力や静電場、時刻 t に関係しない定常状態(永遠の状態)など。) これに、さらに 関数や時間微分、他のベクトル場のポテンシャルなどを付け加えることによって 各種の物理的な意味付けがなされ、物理学と工学の諸分野において それぞれの理論の中心ポイント(理論の出発の式)を表す方程式として用いられる。

  物理学、工学でよく用いられる 偏微分方程式(常微分方程式よりも 解の集合の範囲が大きい)には 次のような形式があり、ラプラス方程式が基本形になっている。


   1) ラプラス方程式;
            

  ・・・ φ を 電場ポテンシャル V ととって 他の電荷の無い静電場、 重力場ポテンシャル など。解は すべて正則関数。


   2) ポアソン方程式;
                は既知の関数 あるいは 定数
  ・・・ φ を電場 V、 f を粒子の電荷密度 にとって 電荷の存在する静電場ポテンシャル  、質量の存在する重力場 など。


   3) 熱方程式;
            

  ・・・  を温度 T 、 k を熱拡散率(λ/Cv)とすると、時間とともに変化する温度分布が得られ、時間と共に均一になる。


   4) 波動方程式;
             

  ・・・ 光、音、弦や膜の振動などの波を表現し( は 波動の伝播速度)、波動方程式の解は正弦波を重ね合わせることにより得られる。


   5) 調和振動子(シュレディンガーの方程式);

     @) 一次元のバネの場合(単振動の定常振動);

               

  ・・・ 調和振動子は 数学的には ポアソン方程式の一つで、特に 関数 f にポテンシャルを追加したもので、中心力場のモデルである。ポテンシャルの大きさが 距離の2乗に比例する理想的なバネを想定すると、バネ定数を k とする振動子は バネの復元力 F = − k x (変位に比例)より、 変位 x における エネルギー・ポテンシャルは  。 解の満たす条件(@ 変位の絶対値に対し等しい運動になる、A 変位が∞になるとき 0 になる)から、  が一つの解(特殊解)として与えられ、 級数展開によって一般解が求められる。


      A) 三次元の定常波で クーロン力によるポテンシャルに束縛された系(水素原子);

               

  ・・・ 陽子による ポテンシャル  に束縛された電子の時間によらない波動を表現し、これを解くことによって 各量子数 (n、m、l )ごとの 電子の確率分布が導出される。ただし @)のようなバネと違って、ポテンシャルVは 無限遠点で 0 にするため 調和振動子ではない。
  たとえば 磁気量子数 m は、極座標で表示し R、Θ、Φ が変数分離された  が、
  0 〜 2π で規格化され、        
  ここで、Φ は φ についての周期 2πの多価関数    である事から、解の一価性より、
                        m = 0、±1、±2、・・・・ (磁気量子数) のどれかを選択する。

  このように、自然の量子性(不連続性)は 解である 指数関数の多価性から出ている!。
  m から l、n が決定され、逆に、n が定まると、l、 そして m の上限値・下限値が自動的に決まる。


  ・・・・・・ 以上は、線形(*)偏微分方程式 で、 exp 関数を基本とするきれいな形の解を持つ。


   6) 非線型の偏微分方程式の例;

     @) 粘性流体方程式(ナビエ・ストークスの式);

      

  (注:この式は 未だ 他の物理法則から導かれていない 経験則) 左辺は 運動量の時間的・空間的変化(結果)を、(ρ 密度、u 速度ベクトル) 右辺は 圧力( p )と粘性(μ)による運動量輸送(各要因)を表わす。 左辺の u・∇u の項(移流項)は強い非線形性を持ち、これによる 乱流の非定常性を発生させる要因を、 右辺の μの項(粘性項)が抑制する形であり、乱流発生の しきい値を決めるのに レイノルズ数(Re = U L/(μ/ρ) ・・ 無次元数、(U 特性速度、L 特性長さ))が用いられる。


      A) アインシュタインの重力場方程式;

       
  ・・・ 一般相対性理論によれば、重力場は時空の曲がりと等価であり、その正しさは、多くの天体現象や素粒子の現象で確認されている。 この式の 左辺は 時空の幾何学的曲がり、右辺は 物質場(質量またはエネルギー)。 gik は 多様体の計量を記述し、10個の独立成分を持つ 4×4 の対称テンソル。4つの時空座標についての選択の自由があるので 独立した方程式は 6つになる。
  宇宙項については一時撤回されたが、近年宇宙がわずかに加速度的に膨張している観測結果より 再び見直されている。


  *  線形微分方程式:

  未知関数、導関数、既知の関数(定数項1)を係数として 線形結合している微分方程式。
  線形性  @) L(αy) = αL(y)  A) L(y1+y2) = L(y1)+L(y2)   L: 微分作用素
  y1、y2 が解(特殊解)ならば αy1 + βy2 も解であり、解の重ね合わせ(重ね合わせの原理)が成り立ち、線形代数の手法を用いて簡明な形に表わすことができる。 


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